ホーム選びは、パンフレットやwebの情報だけではなく、自分の目と耳、そしてカラダで感じたものを
先日、埼玉県にオープンした、とある介護型の有料老人ホームを訪ねた。
そして、あらためて「百聞は一見にしかず」を強く感じた次第である。
最寄りの駅から歩いて6~7分程度と至近距離にあるのだが、初めての場所なのでタクシーにした。ところが、運転手が道を間違えたのか、降ろされた場所は工事している道路の真ん中。仕方ないので運転手の指す方向に歩き出し、散々迷った挙句、例の老人ホームと併設するクリニックの看板を発見、慌てて脇にある裏扉からお邪魔することに・・・。とんでもない取材のスタートとなったが、裏から中庭を通過することで思いがけないものに出会う。風情ある(歴史を感じさせる)蔵や祠、綺麗に整備されている庭・・・老人ホームというより邸宅のようだ。小さなアクシデントのおかけで、思いがけず、よいものを見ることができた。
その後、ホーム長にインタビューをしたのだが、そのお話しに思わず膝を打った。
ホームで働く職員は、ある種の専門職であり、職人と言っても過言ではないのではと思っている。
とすると、他の施設ではやれないようなことを、当たり前のようにやっているケースもあるが、そのような「想い」や「人」に掛かる部分は敢えてPRもしないし、そもそも、その程度のことは敢えてアピールするようなことでもないと考えている人もいる。
ここのホーム長も介護保険がスタートする二十数年前から介護の仕事をしてきた。そのなかで、もっとこうしたらと思うサービスや環境を提供できずに、理想の介護ができなかったことに忸怩たる思いがあったそうだ。
ここでは詳しく書くことは控えるが、たとえば入居者の「食」や「睡眠」についてのエピソードとこだわりをはじめ、「介護の世界では常識」と思って疑わなかったことが、このホームを運営する会社の代表の施策を聞いて、大きく覆されたことなども熱く語ってくれた。
やはり、インタビューすれば、その人となりや想いの強さはある程度は伝わってくるもの、しかしながら、限られたスペースのパンフレットやウェブサイトだけでは、その想いは語り切れてはいない。
余談だが、この老人ホームは部屋の随所にもこだわりを感じるところがあった。
例えば、部屋に備えてあった加湿器、なんとすべての部屋に水道栓を引き、スタッフが水を替える手間を省けるよう特注したというのだ。つまり、水を替える時間を「ケア」の時間に充てるために、このような工夫をしていたのだが、当然そのことについて積極的にアピールしている訳でもない。
私の取材経験において、そのようなホームは初めてだった。今回は、訪れる前の(ウェブやパンフレットで感じていた)イメージをいい意味で覆された結果となった。
老人ホームは親にとって、終の棲家である。協調したいのは、イメージだけに惑わされず、実際に見て・聞いて、間違えない選択をしてほしいということだ。
=本記事は、夕刊フジに連載しているものです。
掲載の記事・調査データ・写真・イラストなどすべてのコンテンツの無断複写・転載・公衆送信などを禁じます。転載・引用に関する規約はこちら>>
- このコラムを書いた人:「オヤノコト.マガジン」編集長 大澤 尚宏(Osawa Takahiro)
- 著書『そろそろはじめる親のこと』(自由国民社)