親を呼び寄せる際のメリット、デメリット
遠距離介護ではなく、親の介護で同居する際の注意点
離れて暮らす親に「老い」を感じはじめたとき、多くの別居子は「そろそろ、同居したほうがいいのだろうか」、あるいはもっと積極的に「同居するべきだろう」と考えます。
「同居」といっても、自分には自分の暮らす地での仕事など「生活」が確立。と、いうわけで、親のところにUターンすることよりも、「呼び寄せ」を検討するケースが多いでしょう。
先日、ある自治体の民生委員さんの研修会でお話させていただく機会がありました。話終わったところで、民生委員のおひとりが手を挙げて発言されました。「私の個人的意見としては『遠距離介護』なんてありえません。子がいるなら、子の誰かが親の面倒をみることが当然なのではないでしょうか」。
そろそろ同居?とは言うものの……
すると、次に手を挙げられた民生委員さんは、民生委員としてではなく「いち個人」=「子のひとり」として発言されました。50代くらいでしょうか。「兄弟もいますが、みんなバラバラに暮らしています。独居の親は認知症となり、わたしが看ようと呼び寄せました。でも、わたしの方が介護に参って、わずか1か月でもとに戻し、向こうで施設に入居してもらいました。看てあげようと思っても、看てあげられない現実がありました」。
決して、前者の民生委員さんの意見を否定するつもりはありませんが、実際後者の民生委員さんのようなケースが多いように思います。
呼び寄せることのメリットは、すぐ近くに居られるので、心身の状況が分かって安心。緊急時には受診させるなど、迅速に対応できます。通うための時間や交通費が不要です。
では、デメリットは?
親に認知症などの症状がある場合、急激な環境の変化で混乱し症状が悪化することもあります。呼び寄せを断念された民生委員さんのケースも、これだったのかもしれません。
また、ほんとうに24時間傍にいられるのか…、ということも考えなければいけないこと。呼び寄せたのに、結局、子は仕事などで日中出払い、自宅には親だけが取り残されるなんてことも。初めて暮らす土地で、知人や友人もおらず、かえってさみしい思いをさせることになりかねません。友達をつくるにも、言葉のイントネーションが違うなど、ちょっとしたことが障壁になることもあります。
また、一緒に暮らすとつい何でも言ってしまって険悪な雰囲気になることも多いようです。
同居するとサービス利用に制限が!?
もう1点、子と同居になると、独居と比較して介護保険のサービスが使いにくくなりがち。たとえば、ホームヘルプサービスの生活援助サービスなどは、子と同居すると利用対象外となる場合があります。必ずしもというわけではありませんが、そういう対応をする自治体が少なくないのが現状です。また、いずれ施設介護を考えた場合も、子と同居していると、独居に比べて入居の優先順位が低くなりがちです。先に紹介した民生委員さんも「住民票をこちらに移していなかったので、向こうで施設に入居できた」とおっしゃっていました。まだ「独居」扱いだったのですね。
家族ごとにベターな選択は異なる…
デメリットを並べ立てましたが、もし関係するすべての人が「呼び寄せ」をベターと考えるなら、それはいい選択なのだと思います。すべての人とは、「親」や「あなた」はもちろん、もしあなたが結婚している場合は配偶者などです。一度も一緒に暮らしたことのない「義理」の親との同居は、新たなコミュニケーション形成を余議なくされます。昔からいわれる嫁姑問題もそのひとつ。兄弟とも話し合っておかないと、「親」だけでなく、「財産」まで呼び寄せると勘違いされ、もめることも。
問題をクリアできるようなら、「呼び寄せ」も「あり」なのでしょう。同じ屋根の下ではなく、「近所」も選択肢。同じマンションの別の部屋に呼び寄せ、うまくやっているという方もいます。
あるいは「遠距離介護」を継続するなら、親元にどんなサービスがあるのか情報収集をおこたらず、また親にさみしい思いをさせないよう「情緒的支援」も欠かせません。
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- このコラムを書いた人:介護ジャーナリスト 太田差惠子(Saeko Ota)
- 介護・暮らしジャーナリスト NPO法人パオッコ理事長 AFP(日本ファイナンシャル・プランナーズ協会)会員 京都市生まれ。高齢化社会においての「暮らし」と「高齢者支援」の2つの視点から新しい切り口で新聞・雑誌などでコラム執筆、講演活動等を行う。1996年、親世代と離れて暮らす子世代の情報交換の場として「離れて暮らす親のケアを考える会パオッコ」を立ち上げ、2005年5月法人化した。現理事長。2012年3月、立教大学院21世紀社会デザイン研究科前期課程修了。介護、ジェンダー、ワークライフバランスなどを総合的に学んでいる。個人サイトは「太田差惠子のワークライフバランス」著書に『老親介護とお金 ビジネスマンの介護心得』(アスキー新書)、『故郷の親が老いたとき』(中央法規)、『遠距離介護』(岩波ブックレット)など多数