介護にはいくらかかるのか
ファイナンシャル・プランナーとして、介護費用について各地で講演をしています。
その際に、もっとも多く受ける質問が「介護にはいくらかかるのでしょうか?」というものです。
親の介護にどのくらい費用がかかるのか、不安になるのもわかります。
ただ、この質問に答えるのは簡単ではありません。私はいつも「ピンキリです」と申し上げています。
介護費用は安くあげようと思えば、それなりに抑えられます。
一方、充実した介護を得るために費用をかけると、いくらあっても足りないぐらいです。もちろん、介護が必要になってから、どのくらい生きるのかによっても違います。
1年で亡くなる方もいれば、10年以上介護を受けながら生きる方もいるわけで、介護費用に差があるのは当然です。結局、千差万別で、一概に「いくらかかる」と答えにくいのが介護費用です。
アンケート調査から、介護費用の“平均”を見る
「親の介護にかかる費用は、ピンキリ・・・」。
ただ、そうはいっても、まったく見当もつかないのは不安です。
そこで、アンケート調査から、おおよその〝平均〟を見てみましょう。公益財団法人生命保険文化センターという団体が、介護費用の調査を行っています。2021年の調査結果から見ていきましょう。
過去3年間に介護経験がある609人に、介護費用を「一時的な費用の合計」と「介護費用(月額)」に分けて尋ねています。
「一時的な費用の合計」では、調査での平均値は74.4万円でした。5.6%は200万円以上と回答しており、かなりまとまった費用がかかっている人もいます。もっとも、「掛った費用はない」が15.8%、15万円未満は18.6%となっており、大きな支出がなかった人も多くいます。
「介護費用(月額)」では、調査での平均値は82.7千円でした。毎月およそ8万3千円がかかっているというわけです。調査ではいくつかの金額に区分けして選んでもらっていますが、もっとも多いのが一番上位の区分である「15万円以上」で16.3%です。その次に多いのは、金額で下から2番目の区分である「1万円から2万5千円未満」の15.3%でした。これを見ても、かなりかかっている人とあまりかかっていない人にはっきりと分かれているのがわかります。
では、介護をした期間はどれぐらいだったのでしょうか。
それによって介護費用の合計額は違ってきます。同調査によると、介護期間の平均値は61.1カ月でした。約5年です。「介護費用(月額)」に介護期間をかけて「一時的な費用の合計」を加えると、介護にかかった費用の合計額が推計できます。平均値を使うと、579.7万円となります。およそ600万円弱が平均的な姿と言えそうです。ただ、調査サンプルがそれほど多くはなく、回答にバラつきが多いので、この金額にあまりこだわるのはよくありません。一つの目安と考えるのがよいでしょう。
※以上、(公財)生命保険文化センター「生命保険に関する全国実態調査2021年度」より
「(介護費用に)どれくらいかけられるのか」と考える
介護の費用が、バラつきが大きいのは、介護期間の違いもありますが、自宅での介護と施設入所との差による部分も大きいと言えるでしょう。自宅での介護であれば、それほど費用をかけずに済ますこともできます。もちろん、介護費用以外に食費や水道光熱費がかかりますし、賃貸住宅であれば家賃もかかります。そして介護保険サービスを活用しても、家族の負担は小さくありません。
一方、高齢者施設に入所すれば、入居一時金や毎月の月額費用などの費用がかかります。ただ、その中に食費や水道光熱費、住居費も含まれているわけで、その点は考慮する必要があります。そして何よりも家族が介護の負担から解放されますので、費用をかけるだけのメリットはあります。
やはり、費用はかければかけるほど、充実した介護サービスを受けられる傾向はあります。
では、介護に費用をかけるにあたって、どのような点を考慮して考えればよいでしょうか。
1つの判断基準として、「介護費用は親の貯蓄で賄う」という点を挙げておきましょう。介護費用を子が負担していると、その子が高齢となった際に、またその子に負担を求めることになりかねません。
介護費用が「ピンキリ」なのであれば、親の貯蓄を基準に「どれくらい費用をかけられるか」を考えるとよいでしょう。貯蓄が十分にあれば、費用をかけて充実した介護サービスを受ければよいですし、少なければ、その範囲の中で工夫すればよいでしょう。「どれくらい費用がかかるか」ではなく、わが家は「どれくらいかけられるか」を考えるのです。
そして、同じ費用でもできるだけ良い介護を選ぶようにしたいものです。介護は費用も千差万別ですが、そのサービスもさまざまです。介護サービスの内容や高齢者施設の仕組みを知って、よりよいサービスを選ぶことが大切です。
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「オヤノコト」パートナー相談員 村井英一
家族の生活設計の相談を多く受ける。介護の費用についても詳しく、各地で講演が多い。
ファイナンシャル・プランナー、FP技能士1級
特定非営利活動法人くらしとお金の学校 代表
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