明日はわが身。「その日」は突然やってくる
2020年前後の団塊ジュニアの介護離職者の増加は、日本社会にとって大きな不安材料になっています。今や、40~50代の男女が集まれば、高齢の親や家族のこと、介護の悩みの話題が尽きないことも珍しくありません。
その一方で、積極的に介護や認知症の情報を集め、備えている人はほとんどいないのが現状です。弊社の調査でも、不安はあるものの、対策をしている40~50代はたった16%程度であることがわかりました。
しかし、加齢にともなうリスクはいつでも、誰にでも、突然降ってくることを心得ておきたいものです。
(「親の老いに関する意識調査」株式会社オヤノコトネット、2010年)
万が一の事態に備えて、介護について情報収集を!
建設会社勤務のBさん(40代)は都内で奥さんと子どもと暮らしており、関西に住む両親も元気だったので、「親のこと」については何もしないまま過ごしていました。
ところがある日、母親から「お父さんが倒れた」との電話を受けました。
庭いじりをしていた父親が倒れ、救急車で病院へ。一命は取り留めましたが、麻痺が残りリハビリ生活を余儀なくされることに。
そこで意外なことに困ってしまいました。今までは父親が運転するクルマで買い物に行っていたので、交通手段がなくなってしまったのです。
困った母親は、Bさんに「原付を買うか、自分でクルマを運転して買い物に行こうか」と相談。
子供からしてみれば、年老いたペーパードライバーの母親に運転はさせたくない、いわんや原付などもっとあぶないので乗って欲しくないのが正直な思いです。
Bさんは「どちらの案もやめてくれ」と言ったものの代替案がみつかりません。最終的には弊社がお勧めした電動アシスト付の高齢者用3輪自転車を購入して事なきを得ました。
しかし、こうした商品の情報も、あまり知られていないこともあり、介護離職には至らなくとも、親の病気や事故にともなう問題を解決できずに悩んでしまう人は少なくありません。
近年、育児介護休業法の施行で介護休業、介護休暇をはじめ、時短勤務などが定められ、支援は手厚くなっていますが、弊社の調査では、「親の介護を会社に相談しずらい」「相談できない」という人が80%に上りました。
それならば、どうすれば国や制度に頼らず介護を乗り越えられるのか?
「ウチの親は元気だから大丈夫」などと甘く考えず、しっかりと備え、親と自分たちをいかに守るかについて真剣に考えていきましょう。
また、日頃から情報を収集し、勤務先の介護休業・介護休暇制度などの内容を熟知しておくことをお勧めします。
高齢者の家庭内事故が多いのは、リビングや台所?
特にやっていただきたいのは、帰省時を利用して、親の暮らしぶりを観察することです。例えば、以下のようなことはないか、目を配ってみてください。
(1)食卓に手をついたり、食卓を引いて立ち上がったりするようになった
(2)室内を歩くとき、テーブルだけでなく、椅子につかまっている
(3)壁に手垢が付いている(階段・廊下・玄関の段差等)
(4)布団を敷きっぱなしにしている
(5)お風呂に入るのを面倒くさがっている
(6)買い物に行かなくなった。料理をしなくなった
(7)買ったものを床に置いたままにしている
(8)食器を食器棚にしまわず、出しっぱなしにしている
これらの兆候があれば、要注意です。
例えば、3の「壁に手垢が付いている」の場合、身体機能が落ちてきて、伝い歩きをしていることが考えられます。
放っておけば、家庭内の事故で突然寝たきりになる事態も考えられます。
住宅内と聞くと「お風呂や階段か?」と思われるでしょうが、実際に事故発生現場はリビングや台所が多いのです。
こうしたことを踏まえて、まず親が元気なうちから、暮らしぶりを観察し、親子で話し合って安全、快適に過ごせる環境を考えていきましょう。
=本記事は、夕刊フジに連載しているものです。
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- このコラムを書いた人:「オヤノコト.マガジン」編集長 大澤 尚宏(Osawa Takahiro)
- 著書『そろそろはじめる親のこと』(自由国民社)