楽に座って、楽に移動。やりたいことがやれる車いす
車いす……「車いすなんてみんな同じ。どれを使っても同じ」、ひどい時には「車いすは、親を運ぶ道具」ぐらいに思っている「オヤノコト」世代は多いのでは。
いえいえ、実はカラダのことを考えた車いすを選ばないと、二次障害でカラダが湾曲してしまったり、傾いたままカラダが固まってしまったり・・・ひどいときには車いすに乗っているよりは寝ているほうがラクとベッドで過ごすことが長くなってしまうことも。
では、「違いのある」車いすってどんなものなのでしょうか? 「座る」「カラダに合う」ことをいちばんに考えたそんな車いす選びについて、車いす製造50周年を迎える日進医療器株式会社の森永浩規さんにお話を伺ってきました。
聞き手:オヤノコト.マガジン編集部
車いすは親のライフスタイルをつくる手段
読者のみなさんは、車いすの生活にどんなイメージを持っていますか?
親が車いすを使う場面など、あまり考えたくないというのが本音ではないでしょうか。「オヤノコト」編集部員もそうでした。車いすを使う生活、それはもう親の人生の最終章だと、後ろ向きのイメージを持っていました。
森永さんによると、そういったイメージは日本特有のものなのだとか。
「日本の車いすのカタログでは、車いすに介護される方が座り、その後ろから介護者が話しかけているといった構図ばかりですね」。
おっしゃるとおりです。
では、そうではない構図があるのでしょうか。
「海外のカタログでは、車いすに乗って釣りをしたり、野球を観戦したりしているイメージ写真が使われていて、車いすなど福祉用具に対するイメージが日本とはまったく違います.
日本では、車いすに乗っている方を介護するイメージしかありません。車いすに乗っているご本人が“何をするか”というイメージがないんです」。
そう言われてドキっとしました。確かに、車いすに乗って親が何かをするなどと、考えたこともありません。どちらかと言うと、「親を乗せて移動する」目的でしかなかったかも。
「車いすは、それ自体が“目的”なのではなく、本人がやりたいことをするための“手段”です。なかでも『座王シリーズ』は快適な足代わりとして、親世代のライフスタイルをつくるための道具なのです」。
そう言われて、目からウロコが落ちる思いがしました。快適な道具を使えば、あきらめていた趣味の活動も、再び楽しめる可能性があるのですね。
これまで、車いすを押す側としてしか見ていませんでしたが、まさにコロンブスの卵的発想の転換です。車いすは、子どもが親を運ぶための台車でなく、親が主役。だから車いすを選ぶときには、子どもが押しやすいという視点ではなく、親が座るという視点を持つことが大切なのですね。
座りやすさの秘密は3つのベルト
『座王シリーズ』は、「座る」「移動する」を楽にしてくれる車いすです。
実際に座ってみると、安心してカラダを預けられ、心地よい安らぎを感じました。思わずホーっとため息が出るくらい。
「座って、移動して、そして活動してほしいという想いを込めて開発しています」。
その想いが表れているのが、背面にある3つのベルト。 胸郭を広げる「胸郭支持ベルト」、骨盤を包み込むようにサポートする「ヒップ支持ベルト」、この2つのベルトの間で交差し、腹部圧迫を軽減する「下部胸郭支持ベルト」です。
円背や、左右のバランスがくずれているなど、親世代の特徴的なカラダの状況に合わせて、的確な位置・方向から、的確にサポートしてくれます。
「いすという四角い“箱”に、円筒形のカラダを入れると、どうしても隙間ができます。そうなると、いすの背面や坐面と接しているカラダのわずかな部分に圧力がかかります。自由に体勢を変えられない方の場合は特にその箇所に負担がかかり、ひどくなると褥瘡(じょくそう)の原因にもなるのです」。
『座王シリーズ』ではこの3つのベルトがカラダといすの隙間をなくし、体圧を分散させています。それが「座り心地のよさ」の秘密だったのですね。
では車いすを選ぶ際、どこに気をつけたらいいのでしょうか。
森永さんは「まずは座ってみることです」と言います。
チェックポイントは、幅、高さ、奥行きなどが親のカラダに合っているか、カラダに当たる面積が広く、体圧が分散されているか。素人ではその判断がつきにくいですが、福祉用具販売店には福祉用具専門相談員がいるので、相談しましょう。
車いすが親のカラダに合っているかどうか、一番わかりやすい指標を森永さんが教えてくれました。
「『疲れる』などと言って車いすに乗りたがらなければ、カラダに合っていないと判断してください」。
車いすは介護保険のレンタル対象なので、親のカラダに合わなければ変更することができます。
日進医療器では、携帯用の車いすも開発しています。5.5キロという軽さで、折りたたみができ、持ち運べます。
ふだん杖や歩行器を使えば歩ける方を対象とした商品です。近くなら歩くことができても、長い時間や距離が不安だと家族で出かけることもなくなっていきますが、携帯用車いすを車のトランクに入れておけば親子ともに安心。「外に行ける」という自信にもつながるのではないでしょうか。
『座王シリーズ』と携帯用車いすを活用して親が人生を楽しんでくれれば、子どももうれしい。今回の取材は、車いすから先の人生を考えるきっかけになりました。
【談】日進医療器株式会社 森永浩規 さん
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