「自分のこと。ときどき親のこと。第5回~配偶者、きょうだい、子ども…、関係は良好?」
以前インタビューをした女性Aさん(60歳)が、こんなことを話し、思わず吹き出したことがあります。
「『会社』って、すばらしいところですよね。夫のことを朝から晩まで預かってくれて、しかもお給料までくれるんですから」
Aさんの夫は定年退職を迎えて、毎日「在宅」状態でした。
昔から「亭主元気で留守がいい」という言葉があります。
最近では「主人在宅ストレス症候群」という病名を耳にすることもあります。
夫の定年退職後、夫が在宅することで妻がストレスを感じて体調を崩すという病のようです。
(男性からすれば、「いいかげんにせい」と腹立たしく思うことでしょう)
当時、Aさんは実家の母親のところへ介護のために定期的に通っていました。
月に数回、新幹線に乗っての通いは、60歳となったAさんには体力的にも経済的にもかなり厳しそうでした。
そこで、「同居は考えないのですか」と質問したところ、「夫婦の関係だけでもうまくいかないのに、この上、母を呼び寄せたりしたら、家のなかはぐちゃぐちゃですよ」とAさん。そして、先の「会社ってすばらしい」発言に続いたのです。
なるほど、親の「介護」をする際には、「家族」であるがゆえに、キツイ口調になって言い争いになることもあります。互いに譲歩や思いやりを積み重ねつつ向き合っていくわけですが、そんなときにうまくいっていない配偶者がすぐ傍にいると…、苛立ちが募ることは容易に想像できます。
別の女性Bさん(50代)は、実姉とのゴタゴタで悩んでいました。昔から反りが合わずBさんのすることにいちいちケチをつけます。父親が病気になって入院した際には、看病の方法や、治療法、費用のことで諍いになりました。その後父親は亡くなりましたが「悲しみと姉への苛立ちの両方で、うつっぽくなりなりました」とBさん。独居となった母親にもっと会いに行きたい気持ちはあるものの、姉との鉢合わせが怖くて足が向かないといいます。
身近な人間関係が良好であってこそ、親を支えることがスムーズなのだと思います。とはいえ、一朝一夕に何とかできるものではありません。まずは、「良好ではない」関係を認めた上で、どうするか。
くっつき過ぎないよう上手に距離をとることも必要です。
Bさんのようなケースでは、専門のカウンセリングを受けることで楽になるかもしれません。
そして、忘れてはいけないのは自分のことです。「○○在宅ストレス症候群」の○○に自分の名前が入っていないか…。もしかすると、気付かぬうちに、配偶者やきょうだい、子どもが、あなたの在宅にストレスを感じているかも…。
家族といえども気配りや配慮を持ってのコミュニケーションを心掛けたいものです。
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- このコラムを書いた人:介護ジャーナリスト 太田差惠子(Saeko Ota)
- 介護・暮らしジャーナリスト NPO法人パオッコ理事長 AFP(日本ファイナンシャル・プランナーズ協会)会員 京都市生まれ。高齢化社会においての「暮らし」と「高齢者支援」の2つの視点から新しい切り口で新聞・雑誌などでコラム執筆、講演活動等を行う。1996年、親世代と離れて暮らす子世代の情報交換の場として「離れて暮らす親のケアを考える会パオッコ」を立ち上げ、2005年5月法人化した。現理事長。2012年3月、立教大学院21世紀社会デザイン研究科前期課程修了。介護、ジェンダー、ワークライフバランスなどを総合的に学んでいる。個人サイトは「太田差惠子のワークライフバランス」著書に『老親介護とお金 ビジネスマンの介護心得』(アスキー新書)、『故郷の親が老いたとき』(中央法規)、『遠距離介護』(岩波ブックレット)など多数