「自分のこと。ときどき親のこと。第10回~今後、何人をささえることに?」
各地での講演後、たいていどなたかが「ちょっとお聞きしたいんですが」と声を掛けてこられます。
先日は70代くらいの女性でした。
親の介護に悩む40~50代向けのセミナーでしたが、数名親世代のご参加もありました。配偶者の介護をされているのかしら、と思ってお話を聞くと、きょうだいのことでのお悩みでした。
「姉のことで悩んでいるんです」と女性は苦しそうな表情になられました。
「80代の姉はシングルなんです。頑固で身勝手でほんとは付き合いたくないんですが、『姉』だからそういうわけにもいかないでしょ。先日、電話してきて、『なにかのときは、緊急連絡先になってね』と言われたんです。断りたかったけれど、姉妹ですから断るわけにもいかないでしょ。でも、ね。姉が入院などしても、お金がどこにあるのかとか、何も分からないんです。私にも夫や子どもがいますし、私が出すわけにもいかないし。もう、どうしましょ。姉妹じゃなかったら、ぜったい付き合わないんだけど…」
少子化により、「夫婦2人に親が4人」ということをよく言われますが、どうやらささえていかなければならないのは、『親』だけではなさそうです。
経済的な支援、ということでいえば「扶養義務」というものもあります。
民法が定める扶養義務者の範囲は、配偶者間やきょうだい、直系血族とされています。そして、特別な事情がある場合には家庭裁判所の審判によって、3親等内の親族が扶養義務を負う場合があります。
直系血族って?
両親、祖父母、曽祖父母、子、孫、曾孫などです。
特別な事情がある場合の3親等内の親族って?
おじ・おば、おい・めいなども含まれるということです。
結構範囲は広いのですね。ただし、配偶者と幼い子に対してはとても強い義務が課されているのに対し、それ以外へは自身の生活にゆとりがあれば…、となっています。
先述の70代女性には、現在の懸念をそのまま姉に伝えることを提案しました。「もし、病院などから緊急連絡がきた場合、すぐにお金も必要になるけれど、それは、どこから出せばいいかしら」と。
女性は大きくうなずきました。
「それ、いいですね。『私は出せないわよ』というと角が立つけど、『どこから出せばいい?』だったら、姉も怒らないと思います。そう言ってみるわ」
「改正生活保護法」が成立しました。
通常、生活保護の申請をすると親、きょうだい、子、配偶者に照会が行われます。これを「扶養照会」というのですが、扶養することが難しければ拒否することもできました(実際には、返信すらないことが多いようです)。しかし、改正法では福祉事務所が、生活保護の申請者やその親族を対象に、収入や就労状況などについて調査できることに。「照会」が届き拒否するには、「扶養できない理由」を説明する必要が生じることになるようです。
事実上の「扶養義務の強化」という流れのなか、あなたが「ささえなければならない人」は想定の範囲を超える可能性もあります。裏返せば、自身が思わぬ親族にささえられる可能性も出てくるということです。
いい・悪いはここでは置いておくとして…、日本における「親族」って、とても重い位置づけにあるようです。
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- このコラムを書いた人:介護ジャーナリスト 太田差惠子(Saeko Ota)
- 介護・暮らしジャーナリスト NPO法人パオッコ理事長 AFP(日本ファイナンシャル・プランナーズ協会)会員 京都市生まれ。高齢化社会においての「暮らし」と「高齢者支援」の2つの視点から新しい切り口で新聞・雑誌などでコラム執筆、講演活動等を行う。1996年、親世代と離れて暮らす子世代の情報交換の場として「離れて暮らす親のケアを考える会パオッコ」を立ち上げ、2005年5月法人化した。現理事長。2012年3月、立教大学院21世紀社会デザイン研究科前期課程修了。介護、ジェンダー、ワークライフバランスなどを総合的に学んでいる。個人サイトは「太田差惠子のワークライフバランス」著書に『老親介護とお金 ビジネスマンの介護心得』(アスキー新書)、『故郷の親が老いたとき』(中央法規)、『遠距離介護』(岩波ブックレット)など多数