親世代の身体に合った靴選び
親世代の靴選びは、足のトラブルや悩みが増えた分、なかなか足に合う靴が見つからないという声をよく聞きます。おしゃれを楽しみながら、足に合った靴を探すにはどうしたらいいのでしょうか。長年障害者・高齢者の衣服や靴の研究、相談に携わってこられた福祉技術研究所の岩波君代先生にお話をうかがいました。
自分の身を守るために、自分の責任で靴選びを
「靴を語るのは難しいんです」。開口一番、岩波先生の口から出たのはこんな言葉でした。
これまで日本人は、足や靴についてしっかりした教育を受けてきませんでした。そのため足についての関心は低く、むしろ隠したいという意識が強い、と岩波先生は指摘します。
そもそも日本人が靴を履くようになったのは、明治維新で欧米から洋装を取り入れてから。しかも、一般大衆が暮らしの中で当たり前に履くようになったのは戦後ですから、日本に靴文化が根付いていないのは当然のことかもしれません。また日本人は、室内では履き物を脱いで暮らしています。だから、今でも脱ぎ履きがしやすいことが履き物の第一条件です。室内でも靴を履いて過ごす欧米とは、靴に対する考え方も根本から違うのでしょう。しかし靴の善し悪しは足だけでなく、膝や腰、そして身体全身体に大きな影響を及ぼします。「「自分の身を守る」という意識で、人任せにせず、自分の責任で靴を選んでほしいと思います」と岩波先生。
靴選びの第一歩は、自分の身体の情報を知ることです。親世代の身体は加齢に伴ってどう変化しているのでしょうか。
加齢により変化する身体。転倒の危険性が増える
私たちは歩く時かかとから着地し、次に足全身体に身体重をのせ、最後に足趾(ゆび)で地面を蹴って前に踏みだします。ところが高齢になると、前かがみになるため身体の重心が前方に移ります。するとかかとから着地できなくなるので、歩幅が狭まったり、膝や股関節などが悪くなったりします。O脚も増えます。歩幅が小さくなると小刻みに歩くようになり、つまずきやすくなります。
また特に女性は足に合わない靴を長年履いてきていることが多く、足に様々なトラブルを抱えています。「親の足の爪を切る機会があったら、ぜひ観察して見てください」と岩波先生は言います。
足先の血液は循環していますか?
血液の流れが悪くなると皮膚が変色したり、むくんだりしています。足の変形が進んだり、傷、タコ、ウオノメ、白癬菌ができたりしていませんか?
爪の状態はどうですか?
外反母趾になっていませんか?
「足を観察すれば情報はたくさん得られます。同時にそれはいずれ子世代もそうなるということ。介護と同じです。いつか自分も、という心の準備をしておきましょう」と岩波先生。
歩くための靴には、歩くための機能が必要
さて靴を選ぶ前にはっきりさせておいてほしいのは、何のために靴を履くのかということです。
「歩くための靴、歩きにくい人のための靴、歩かない人の靴はまったく別物と考えてください。車いすの方に、歩くための靴を選んでも意味がありません」。
また、高齢者ならシニア向けとして売っている靴や介護シューズを選べばいいだろうと考えるのも間違いです。
「介護シューズは歩きにくくなってからの靴だと考えてください。シニア向けと称して軽さを売りにしている靴もありますが、筋力が衰えている人にはいいですが、足の機能を保つために必要な靴のパーツを使わずに軽くしているのだったら、本末転倒です」。
歩くためには、ある程度の重さも必要な場合もあります。靴と足が一身体化すれば、足運びは軽く感じられるそうです。
その方の身体の状態に合った機能を持つ靴を選ぶことが重要です。
お話をお聞きしたのは
福祉技術研究所
岩波君代先生
32年間、東京都において障害者・高齢者の衣服、靴の研究や相談にたずさわってきた経験を生かし、現在、福祉技術研究所(株)で、メーカーのコンサルタント、講習会などを行っている。上級シューフィッター(FHA認定)。
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